〜大野会長による寄稿〜 続βグルカンの魅力8

非免疫細胞に発現したDectin-1による免疫制御

はじめに

βグルカンの免疫機能への注目度は、2000年にAriizumi博士によるDectin-1受容体の発見を契機として急速に高まり、研究は世界中の研究チームで続けられている。発見から20年を経て、免疫研究は一段と進展し、Dectin-1への興味は益々高まっている。

 生体防御機構(免疫機構)は獲得免疫と自然免疫という二つの大きな仕組みから構成されている。前者は抗原とリンパ球上の受容体(B-cell receptor(BCR),T-cell receptor (TCR))を介した厳密な抗原特異性(V領域遺伝子の構造を異にする多数のクローン)を中心に据えた機構である。一方、後者は、病原体関連分子パターン(Pathogen associated molecular patterns; PAMPs)PAMPsとパターン認識受容体(Pattern recognition receptors 又はpathogen recognition receptor; PRR)を中心に据えた機構である。PRRは細胞膜、細胞質、可溶性タンパク質として存在し、Toll-Like受容体(TLR)、C型レクチン受容体(CLR)、Nucleotide binding Oligomerization Domain containing (NOD)-like receptor (NLRs) およびRig1-Like受容体(RLRs)という4つのファミリーに大別される。TLR4は細菌内毒素LPSの受容体であり、敗血症ショック等の重篤な感染症の中心分子となっていることから、自然免疫研究を牽引した(2011年ノーベル生理学・医学賞)。

 CLRは17のグループに分類される1000以上の受容体から構成されている。CLRは細胞外にC型レクチン様糖鎖認識ドメイン(CRD)を有し、Ca2+依存的あるいは非依存的に糖鎖を認識する。細胞膜領域にはストークドメインがあり、ホモあるいはヘテロ二量化に関与するシステイン残基を含んでいる。細胞内ドメインにはITAM (Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motif), ITIM (Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibitory Motif), hemITAMなどのシグナル伝達モチーフを有し、サイトカイン産生等の遺伝子発現制御に密接に関与している。

 Dectin-1はCLEC7A遺伝子にコードされたCLRに属する分子であり、マクロファージ/単球、樹状細胞(DC)、好中球を含む骨髄系、およびリンパ系のγδT細胞に広く発現している。マウスでは、好中球、マクロファージ、単球に強く発現している。マクロファージやDCは貪食、殺菌、抗原提示など、多彩で重要な機能を演じていることからβグルカンによる免疫系の活性化に関する研究は、これらの細胞の機能を対象として行われているものが多い。

 マクロファージ(食細胞)は1892年、ロシア(現ウクライナ)の微生物学者・動物学者イリヤ・メチニコフによって発見された(1908年ノーベル生理学・医学賞)。1968年,ファンファースらにより単核球系貧食細胞システム(MPS)が提唱され、さらに1973年スタインマンらによって,マウス脾で樹状細胞(DC)が同定された(2011年ノーベル生理学・医学賞)ことに伴い,単球・マクロファージに加えて,DCも単核球系貧食細胞に分類され,現在に至っている.両細胞の発見には約80年のずれがあるが、いずれも抗原提示細胞としての機能を発揮することから、免疫研究が発展する過程では、細胞の種類は特定せず、単に抗原提示細胞と記載された部分も多い。マクロファージも樹状細胞も発生、分化、分布などの異なるたくさんの亜集団から構成される(不均一性)ことから、細胞ごとの特徴づけはまだ十分に行われていない。

 ヒトのDCは機能と特異的マーカーに基づいて、骨髄性CD11c+CD123- (mDC) とCD11c-CD123+形質細胞DC (pDC) に分類できる。(mDCはconventional DC, cDCとも呼ばれている)。活性化したpDCはTh2型T細胞応答を促進する一方、mDCはこの反応を抑制する。どちらのサブセットもDectin-1を発現しているが、mDCの方がはるかに高レベルで発現している。

 定常状態の二次リンパ組織ではcDCは細胞表面抗原の発現と機能面から,さらにCD8α+cDC(cD C1)とCD11b+cDC(cDC2)に分類される。DCは肺、皮膚、消化管といった非リンパ組織にも分布しており、それぞれ特徴的な分子を発現している(図1).

図1.DCサブセット
 DCサブセットは従来型DC(cDC)と形質細胞様DC(pDC)に大別される.cDCはさらにcDC1とcDC2に分類される.これらDCサブセットは共通DC前駆細胞から分化し,常に供給されている.
(出典:参考文献3より引用)

非免疫細胞のDectin-1発現

 Dectin-1は上皮組織にある非免疫細胞にも発現されている。上皮組織は、上皮細胞、メラノサイト、ケラチノサイト、ランゲルハンス細胞など、多くの異なる細胞から構成されている。ランゲルハンス細胞はDectin-1(+)であり皮膚の樹状細胞として機能する。ケラチノサイトもDectin-1+細胞である。ケラチノサイトをインターフェロンγ(IFN-γ)、インターロイキン(IL)-1α、IL-6、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、IL-17などの炎症性サイトカインで処理すると、Dectin-1の発現が増加する。ヒト気管支上皮細胞では、Dectin-1依存的にインフルエンザ菌に対して炎症性反応を起こす。ヒト角膜上皮細胞におけるDectin-1の機能は、ラットのアスペルギルス感染モデルで証明されている。ヒト腸管上皮細胞の初代培養や細胞株にもDectin-1の発現が認められ、βグルカンに応答して炎症性サイトカインを産生する能力があることが示されている(参考文献4−9)。

 Dectin-1はヒトの呼吸器上皮で構成的に発現しているが、アレルギー状態の上皮では、アレルゲンに誘発されてIL-33が産生されており、このIL-33は上皮のDectin-1の発現を抑制している。上皮細胞におけるDectin-1の発現抑制は、自然免疫系サイトカインの制御異常を起こし、防御経路の減少を通じてアレルギーを引き起こされると考えられる。この機構は、IL-33依存的なSTAT3の活性化とそれに続くデクチン-1遺伝子CLEC7Aの抑制を介して行われている。

図2.
デクチン-1は、マクロファージやDCに存在するだけでなく、ヒトやマウスの呼吸器上皮細胞にも構成的に発現しており、そこで保護的な役割を果たしている。アレルゲンによって誘導されたIL-33は、上皮細胞上のデクチン-1を抑制するが、免疫細胞上のそれは抑制しない。IL-33によって誘導されたSTAT3は、非造血系細胞で活性を持つ新規エンハンサー領域-CENSER-を介してデクチン-1を抑制している。
(出典:参考文献10, Graphical abstractより引用)

まとめ

 βグルカンは多彩な機能を発揮している。補体を活性化し、凝固系を活性化し、特異抗体が産生され、自然免疫受容体Dectin-1が発現している、といった一連の事実から、βグルカンが機能を発揮することは明確な事実である。感染免疫、アレルギー、自己免疫、腫瘍免疫などの各々の領域の中で、βグルカンは重要な分子である。βグルカン受容体であるDectin-1が非免疫系細胞である上皮組織に発現していることを示す研究が増えており、βグルカンの機能を説明するうえで重要な意味を持つものである。

参考論文

1)Dectin-1 Signaling Update: New Perspectives for Trained Immunity, Fronteers in immunology, 2022-Vol. 13, Article 812148 
  doi: 10.3389/fimmu.2022.812148

2)ImmGen at 15. Nat Immunol (2020) 21:700–3. doi: 10.1038/s41590-020-0687-4

3)アレルギーにおける樹状細胞の役割、実験医学 37-10 (増刊) 2019, 42(1554). 

4)A Comprehensive Analysis of Pattern Recognition Receptors in Normal and Inflamed Human Epidermis:
  Upregulation of Dectin-1 in Psoriasis. J Invest Dermatol (2010) 130:2611–20. doi: 10.1038/JID.2010.196

5)Expression of Dectin-1 During Fungus Infection in Human Corneal Epithelial Cells.
  Int J Ophthalmol (2014) 7:34. doi: 10.3980/J.ISSN.2222-3959.2014.01.06

6)Dectin-1 Agonist Curdlan Modulates Innate Immunity to Aspergillus Fumigatus in Human Corneal Epithelial Cells.
  Int J Ophthalmol (2015) 8:690. doi: 10.3980/J.ISSN.2222-3959.2015.04.09

7)Role of Dectin-1 in the Innate Immune Response of Rat Corneal Epithelial Cells to Aspergillus Fumigatus.
  BMC Ophthalmol (2015) 15:126. doi: 10.1186/S12886-015-0112-1

8)Human Intestinal Epithelial Cells Respond to b-Glucans via Dectin-1 and Syk.
  Eur J Immunol (2014) 44:3729–40. doi: 10.1002/EJI.201444876

9)Dectin-1 is Expressed in Human Lung and Mediates the Proinflammatory Immune
  Response to Nontypeable Haemophilus Influenzae.
  MBio (2014) 5: e01492–14. doi: 10.1128/mBio.01492-14

10)Epigenetic regulation of epithelial dectin-1 through an IL-33- STAT3 axis in allergic disease.
   Allergy. (2022)77:207–217. doi: 10.1111/all.14898

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