〜大野会長による寄稿〜 続βグルカンの魅力 2.

マイタケ(1)

宿前教室の発足の少し前、宮崎教授(第一微生物学教室、現免疫学教室の旧名称)のもとで、人工栽培されたマイタケの抗腫瘍作用の研究がスタートした。型どおりに研究計画が立案され、粗多糖画分(GFE)に抗腫瘍作用が認められ、論文報告された(Grifola frondosaの培養子実体の抗腫瘍活性、Jpn.J. Med. Mycol., 23, 261, 1982)。GFE画分は、新鮮な子実体を5時間熱水抽出し、抽出物に4倍量のエタノールを加えて多糖画分を沈殿させ、アセトン、エーテルで順次脱水して調製された。収率は約2%。フェノール硫酸法によって、糖含量は約50%、ローリー法で蛋白質含量は約30%であった。抗腫瘍活性の測定は、ICRマウスにsarcoma180を皮下移植し、GFE画分を腹腔内または経口投与し、35日目に腫瘍を摘出し、その固形腫瘍の増殖抑制活性で測定した。各群10匹程度のマウスが用いられている。比較対象としてクレスチン(PSK、医療用医薬品)が用いられた。GFE画分は腹腔内投与では、99%の抑制率を、経口投与では、41%の抑制率を示した。クレスチンは腹腔内投与では92%の抑制率を、経口投与では62%の抑制率を示した。

 抗腫瘍活性測定に用いたsarcoma180ーICRのシステムは、当時汎用されていたものであり、様々なキノコ由来の多糖画分において比較的安定した効果を示していた(その後も30年近く汎用された)。sarcoma180をマウスの腹腔内に投与すると、腹水を貯留しながら懸濁状態で増殖する。実験時には、腹水を回収し、生理食塩水で洗浄して腫瘍細胞を集め、1x10^8の細胞数とし、その50マイクロリットル(5x10^6個)を鼠径部皮下に投与した。腫瘍は、局所で固形腫瘍として増殖する。35日後には、10グラムを超えることもある。この論文でも、生理食塩水投与群では、8グラムを超えている。GFE画分では、平均重量は0.1グラム以下となり、統計学的にも腫瘍増殖抑制効果を示した。

この腫瘍と宿主の関係はallogenicな関係とされている。現時点では、このモデルは以下のように考えられている。ICRマウスはクローズドコロニー(近交系でない)であり、組織適合性抗原(MHC)が均一でなく、sarcoma180はマウスの中で増殖するものの、ヒトの自家腫瘍を代表しているとは考えにくい。また、転移能が殆ど無いので、その点でもヒトのがんとは特徴が異なっている。また、がんが退縮したマウスに再度、sarcoma180を投与しても生着しないことから、抗原特異的な免疫応答(免疫記憶)も惹起される。従って動物モデルとしては、悪性度の低いガン種を用いたモデルといえる。従って、近年では、この動物モデルを用いた評価系はあまり用いられていない。

 この研究では、GFE画分の腹腔内投与並びに経口投与での効果を評価している。当時は、がん免疫療法薬の開発がゴールの一つであったので、腹腔内投与が汎用された。また、一方で、茸を煎じたエキスが癌に効果を示すことは、民間伝承とされていた。熱水抽出物をエタノール沈殿させ、粗多糖画分を調節して活性評価しており、研究の第一歩として定番のスタイルである。βグルカンが活性本体であるとするためには、精製、構造解析、構造活性相関のステップに進む必要がある。宿前教授の研究方針に従い、それらの研究が積極的に行われることとなった。

                                                                β‐グルカン協議会会長
                                                                東京薬科大学 薬学部教授
                                                                大野 尚仁

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